甲状腺の病気と治療
バセドウ病
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが必要以上に作り出されてしまう病気です。
甲状腺の表面には、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の受容体があり、バセドウ病では、この受容体が必要以上に刺激されてしまい、甲状腺ホルモンを大量に作らせてしまいます。
甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を高めるホルモンであるため、このホルモンの異常高値によって代謝が異常に活発になることで、心身に様々な影響を及ぼします。
なぜ受容体を刺激する自己抗体が作られてしまうのかはわかっていませんが、適切な治療を受けて甲状腺ホルモンをコントロールしていくことで、健康な人と変わらない生活ができます。
バセドウ病の症状
- ● 眼球突出(甲状腺眼症)
- ● 甲状腺のはれ(甲状腺腫)くびが太くなったように見える場合がある
- ● 心拍数の増加(頻脈)
- ● 代謝が上がるため食欲が異常に増すが、代謝が高いため体重減少を来たす
- ● 代謝以上に食欲が増し、太る場合もある
- ● 体や手足、指先の震え
- ● 暑がりになり、汗をたくさんかく
- ● 皮膚がかゆくなる
バセドウ病の治療
- 薬による治療
- 甲状腺ホルモンの合成を抑える「抗甲状腺薬」を、服用する方法です。
1~3カ月で、血液中の甲状腺ホルモンの濃度が正常になり、自覚症状もなくなります。
服用を始めてからは、1〜3か月ごとに定期的に甲状腺ホルモンの量を測定し、服用する薬の量を調整していきます。 - アイソトープ治療(放射性ヨウ素治療)
- アイソトープ治療は、放射性ヨウ素が入ったカプセルを服用する治療法です。
放射性ヨウ素は甲状腺に取り込まれ、放射性ヨウ素から発せられるβ線という放射線が
甲状腺細胞を壊し、甲状腺ホルモンの過剰合成を抑制します。
放射腺ヨードを服用するためには、ヨードの含む食材や食事の摂取を控える必要があります。
カプセル服用後2ヶ月から半年程度で効果があらわれ始めます。
※アイソトープ治療を行うためには一定時の条件を満たす必要があり、妊婦または現在妊娠の可能性がある女性は受けることができません。 - 手術療法
- 甲状腺を直接切除することで、甲状腺ホルモンを過剰に分泌している甲状腺機能を安定させる治療法です。
短期間のうちに確実に治療効果が得られます。
橋本病(慢性甲状腺炎)
橋本病は、甲状腺機能低下症とも呼ばれ、甲状腺ホルモンの分泌が少なくなってしまう病気です。
橋本病を発症すると、リンパ球などの免疫系に異常が起き、甲状腺組織の中に多くのリンパ球が侵入し、甲状腺細胞が壊されてしまいます。
甲状腺ホルモン分泌量が低下すると、代謝の低下に伴い、体のあらゆる機能も低下し、疲れやすさやだるさ、眠気などが生じます。
精神的にも不安定になり、落ち込んだりイライラすることが増えるため、うつ病などの精神疾患と間違われやすいことで知られています。
橋本病の症状
- ● 足やまぶたがむくむ
- ● 記憶力の低下
- ● 食欲は低下するが、代謝の悪化により体重が増える
- ● 皮膚が乾燥しカサカサする、粉をふく
- ● 月経異常(女性の場合)
- ● 元気が出ない、やる気が出ない、疲れやすい
- ● 声のかすれ(嗄声)、声が低くなる
- ● 首が太くなる、甲状腺の腫れ(硬くごつごつした感触)
- ● 寒がり、冷え性になる
橋本病(慢性甲状腺炎)の治療
- ホルモン投与・薬による治療
- 橋本病により甲状腺機能が低下している場合は、症状に合わせて、甲状腺ホルモン投与したり、薬で不足した甲状腺ホルモンを補う治療を行います
腺腫様甲状腺腫(腺腫様結節)
甲状腺に1〜数個のしこり(結節)ができる良性の病気です。
多くは頸のしこりや腫れなどの症状で発見されますが、超音波検査で偶然発見されることもあります。
遺伝性のものもありますが多くは原因不明です。
超音波検査と細胞診で診断します。
良性と診断されれば、基本的には治療は不要で経過観察となります。
まれにしこりが大きく圧迫症状が強い場合や、美容的な問題がある場合、
また癌の合併が疑われる場合は外科的治療が必要なこともあります。
甲状腺癌
甲状腺にできる悪性腫瘍で、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌などの組織型があります。
日本人では乳頭癌が92%と圧倒的に多いです。
乳頭癌は、ゆっくり発育し性格がおとなしいことが多い、頸部のリンパ節転移が多い、進行すると周囲の臓器(気管、食道)に浸潤することもある、予後は良好などの特徴があります。
濾胞癌は比較的大きな腫瘤が多い癌であり、術前に濾胞性腫瘍と診断され、手術後に診断がつくケースが多いのが特徴です。
髄様癌は遺伝と関連するものが多く、未分化癌は高齢者に多く、非常に進行が早い癌と言われています。
- 甲状腺癌の治療について
- 乳頭癌、濾胞癌、髄様癌は基本的に手術を行います。
手術方法は甲状腺を半分切除か全摘し、甲状腺周囲のリンパ節をとってきます(郭清といいます)。
癌の広がりに応じて手術方法は変わってきます。
また、乳頭癌、濾胞癌では術後再発予防に放射性ヨウ素による治療(アイソトープ療法)を行うこともあります。その場合、手術は甲状腺全摘が必要です。
未分化癌では手術、化学療法、放射線を組み合わせた集学的治療、また分子標的薬という新しい薬による治療を行います。
甲状腺の検査について
甲状腺は、のどぼとけの下に位置し、蝶が羽を広げたような形をしている内分泌器官です。
甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、生体機能に重要なエネルギー産生やたんぱく合成などを調整しています。
甲状腺機能に異常があると、だるい、疲れやすいといった症状や精神症状も出てきてうつ病や更年期障害と間違われることもあります。女性の場合は月経不順が起きる場合もあります。
一般健診や自治体健診ではチェックされない項目ですので、きちんと検査を受けておきましょう。
血液検査
血液中の甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモンの値を測定して、甲状腺のはたらきや異常を調べる検査を行います。
甲状腺ホルモンにはトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)があり、T3とT4がうまくバランスをとり、働きを調整しています。
甲状腺ホルモンの分泌が過剰な場合には数値は上がり、不足している場合には下がります。
また、脳にある下垂体という臓器から分泌されるホルモンで、甲状腺ホルモンの合成や分泌を促進する甲状腺刺激ホルモン(TSH)も測定することができます。
TSHも測定することで、甲状腺そのものによる病気か、それとも下垂体に異常があるのかを診断することに役立ちます。
エコー(超音波検査)
首の辺りをエコー検査で調べ、甲状腺の大きさ、しこりの存在の有無とその性状、リンパ節の腫大の有無などが分かります。
超音波だけでもある程度の質的診断(良悪性の鑑別)が可能です。
検査時間は約10分程度です。
穿刺吸引細胞診
甲状腺に細い針を刺して直接細胞をとる検査です。
最終的な腫瘍の良性・悪性の鑑別には必須の検査方法です。
腕からの採血と同じ注射針を使うので、痛みは採血とほとんど同じです。
通常、エコーガイド下に行います。
迅速甲状腺血液検査
採血を行い、TSH、FT3、FT4などの甲状腺機能検査を行います。
当院の院内機器では、1時間程度で分析が終わりますので、当日中に結果説明ができます。